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のばらの今週の一冊
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| 「利休にたずねよ」 山本兼一 |
飾らず素直に声を出そうよーーー歌を教えていると、何回も口にする言葉。だが、それこそが難しく、その単純な真実をつかみきれずに、皆悩むのである。
彼は易々とそれをやってのける。
「美」と言うものに素直に向き合っている。
他の者が大いに迷い、悩み、辿り着けずに足掻いているというのに、彼には「美」そのものが見えるのだ。
その為に死を賜る事になってしまったが、「揺るぎなく美しいものをあますところなく堪能する至福は、けっして秀吉ごとき愚物には味わえない」ので、よしとするのだ。
作者の山本兼一を知ったのは、たぶんTV の書評コーナーで「千両花嫁」という直木賞候補になった作品だ。これは幕末、道具屋の若夫婦とその周辺の人々の話。次に読んだのが「狂い咲き正宗」で、刀剣商が主人公。書かれた時期は前後するかも知れないが、その後にこの「利休〜」とくれば、作者本人も並々ならぬ美しいモノ好き、という事だろう。
先に読んだ2作品は、庶民が主人公とあってか、笑いあり、ちょっぴり涙ありの時代小説のひとつの王道を行く読みモノ。
だがこの作品は、天下人・秀吉と大茶人・利休の物語である。凄みがある。
私もいつの間にか、利休が晩年に辿り着いた一畳半(!!)の狭い茶室の内に座り、シュンシュンと沸く湯の音を聞いている。美術館などでみると、同じ黒なら天目茶碗などの方がきれいだな、と思っていたが、なるほどほの明るい小さな茶室で手にする黒楽茶碗は、しっとりとした光を持つのだな、と思わせられてしまう。
その幽玄に魅せられた男たちの姿は、端から見れば愚かである。だが、己の信じるものだけを見、天上まで上り詰めようとする。そこに「美」が存在するのだろう。
陶然とした気持ちを味わわせ、なお、日頃のゆるんだ心持ちに渇を入れてくれたように思える。 |
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| 『しゃばけ』シリーズ 畠中 恵 |
時代小説でファンタジー、と言ったら大好きな宮部みゆきの『霊験お初』シリーズなんですが、ちょいと浮気をしてみたら案外相性が良かったようで・・・。
江戸は日本橋通町の大店「長崎屋」の大事な跡取り息子・一太郎。これが滅法身体が弱い。商売に関しては厳しい父親も、守役の手代達も若だんなには甘々の大甘もいいところ、くしゃみひとつで布団を敷き始める始末。
でもそんな若だんなの回りは妖怪だらけ。自分で動き回れない分、妖怪を手足にして事件を解決していく。
・・・とまあ、こういうシリーズものなんですが、文庫本の解説にもありましたが、今 市子『百鬼夜行抄』という漫画とすごく重なるところがある。でも作者はわかって描いているのでしょう。設定こそ似ていますが、それはそれ、これはこれ。お初ほどコワクなく、百鬼ほどオドロオドロしくない。ライトで楽しい、それでいてホロリとさせてくれる、とても読み易い小説です。
シリーズ最初の「しゃばけ」というのは長編なのですが、その後は短編集で今のところ5冊目が最新刊です。
若だんな一太郎は甘やかされて育っていますがもう17歳。江戸時代じゃなくても独り立ちして良い年頃です。身体はものすごく弱いけれど頭の良い思いやりのある若者ですから、そんな自分をふがいなく思い、何とか人の助けを借りずに生きてみたいと悩んでもいます。
私が特に気に入っているのは、一太郎の腹違いの兄が主人公の「空のビードロ」(2巻「ぬしさまへ」)という一編。人が独りで生きていくというのは、寂しく厳しいものだなあ、としみじみ思ってしまうお話です。誰かが自分を思っていてくれると知ることは、なんと温かく心強いことでしょう。
若だんなを囲むキャストも楽しく、重厚さは無いと思うけれど肩の力を抜いてほんわか楽しみたい気分の時にお勧めです。 |
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